ART出生児の発育・発達に関する研究結果(その一)

まとめ

凍結胚を用いた体外受精によって生まれた子どもの出生時の体重は、不妊治療を行わずに生まれた児に比べて重く、また身長も高いことが示されました()。これは、生まれた週数に比較して大きめか、小さめかというデータ()でも、子宮の中での発育がよくない(生まれた週数に比較して小さい)子どもは、凍結胚移植では自然妊娠より少なく、また新鮮胚移植では多い結果であり、胎内での発育自体がやや異なっていると考えられます。
しかし、1歳6ヶ月になると体外受精で生まれた子と自然妊娠で生まれた児との間で、身長・体重に違いを認めなくなりました。このことから、体外受精で胎内での発育は少し異なってきますが、その差は1歳半を過ぎると小さくなることがわかります。

一方発達の指標であるKIDSスケールの得点は、体外受精で生まれた子どもや、体外受精以外の不妊治療で生まれた子どもで、得点が高く、発達が進んでいることが示されました。
ただ、これについては、
1) 研究に協力してくださった方たちのみのデータであること、
2) 身長や体重など誰が見ても変わらない客観的な数値と違って、
   ご両親が見た主観的な判断からられた数値であること、
3) 施設間の得点のばらつきが大きいこと、
などの理由から、そのまま信じるのは少し待った方がよいと思われます。
ですが、少なくとも体外受精で生まれた子どもが明らかな発育、発達が遅れる、ということはないようです。

さらに、先天奇形については、1歳6ヶ月でなんらかの先天奇形(先天異常症候群)があると言われているこどもは、体外受精で生まれた子どもの2.4%、体外受精以外の不妊治療で生まれた子どもの1.1%、自然妊娠で生まれた子どもの1.8%でした。つまり同じ1歳6ヶ月の時点で、すくなくとも調査に協力していただいた方たちの中では、体外受精で生まれたお子さんと自然妊娠で生まれたお子さんの間に異常を持っている率の差は統計学的にはありません。これまでの報告では、体外受精で生まれた子どもは自然妊娠で生まれた子どもの1.4倍程度先天異常が多いといわれているので、ほぼその範囲に入っています。また1歳6ヶ月で先天異常症と考えられた子どものうち、生まれた時に診断がついたのは約1/3にすぎませんが、先天性股関節脱臼などあとになってからはっきりしてくる病気があるので、極めて多いとはいえないと思います。(なお通常、生まれてきた子どもの3-5%が何らかの先天異常を持って生まれてくると言われています。)さらに、特定の先天異常(たとえば心臓奇形など)が多いと言うこともないと思われますが、これについては今後検討していく必要があるでしょう。

また、これらの異常発生が、何らかの体外受精技術と関連しているかどうかを、様々な因子(母体の治療開始時の年齢;不妊治療の適応、卵巣刺激法、精液所見、胚移植時の発育段階、黄体期管理、性別、出生体重)について検討しましたが、特別に関係していると考えられる因子は有りませんでした。ただ、これについても先天異常の例数自体が少ないために、本当は差があるがまだはっきりしていないという可能性は残っています。

なお今回の解析においては、胎児の発育に強い関連が示されている妊娠中の母親の喫煙、妊娠前の母親のBMIおよび妊娠中の体重増加、あるいは生まれた子どもの精神的発達・運動能力に大きく影響すると考えられる家庭環境や親の考え方などは調査項目に含まれておらず、これを考えに入れて調整することができませんでした。今後また調査をお願いするときに情報収集を行って、より確かな情報を得られるようにいたします。

皆様のご協力に、心より感謝いたします。

平成26年11月吉日
(文責・久慈直昭)

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